3日目【2017.11.18】晴れのち曇り、風強し  6:00~22:00

  翌朝、窓の外に水の音。窓を開けてみるが真っ暗で何も見えないが、ぽたぽたと雨だれの音。てっきり雨が降っている思いこみ、雨具フル装備。部屋を出たら、隣室のメンバーと鉢合わせる。私の格好を見て「え?雨?カメラ置いていこう」と部屋に戻ってしまった。

 

 ところが外に出るともう明るくなっていて、地面は濡れた様子もない。彼女たちにカメラ持ってくるように言わないとと慌てて引き返す。屋根に下りた夜露が滴っていたのを勘違いしたらしい。ひと様に迷惑をかけ、朝から大汗をかいてしまった。

 

 肝心の朝探は青龍蕨類歩道という、シダ類の解説板の並ぶ渓流沿いの園路を歩く。流れの所でカワビタキの雄と雌をじっくり見ることができた。流れに乗ってマガモが来たかと思ったが、アヒルだった。薄暗い園路の横の藪にヤブドリ。 途中でやけに続けて無く鳥がいるなあと思ったら、タカサゴミソサザイが対岸で鳴いたので、ジェニファーさんが録音音声を流して呼んでいるという。相当粘ったが、あきらめて一度ホテルの駐車場に戻り、渓流の対岸を歩くことに。

 

 土曜日とあって早朝から車がどんどん登ってくる。その車道を歩きながらタカサゴカケス、ヤブドリ、カラ類の混群を観察できた。

 今日は朝食後、荷物はいつものバスに預け、車両通行止めになっている奥の滝「松瀧岩瀑布」まで園内バスで向かう。今回はそこでしか見られない特別な鳥に会いに行くという。

 

 バスに荷物を載せて、どんどん混雑してくる駐車場を眺めていたら、横で「ルリチョウ!」と声が上がる。入口に近い看板の上に真っ青な鳥が止まっている。朝日を浴びて輝くばかりだ。思わず駆け寄ったら、ルリチョウの方もこっちに近づいてきた。すごいすごいと思いながらも、目の端で、園内バスのバス停に長い列ができ始めているのを見て、時間を気にする。が、先にバス停に集まっていたメンバーも五百澤氏と一緒にルリチョウを見にこっちに来てしまった。しばし、ルリチョウ鑑賞会。

 大型バスで狭い山道を登っていく。徒歩で散策している人たちもかなりいる。終点で降りると、まさにそこは観光地。トーテムポールが立っている。茅葺屋根のセンターハウスがある。バスを降りた人たちはぞろぞろと列を作って細い吊橋を渡る。橋の上から、下の流れの石の上にカワビタキの雄雌がいるのを見つけるが、立ち止まらないようにと指示が出る。木道を少し行くと、美しい滝に出た。苔むした岩肌を二段になって滝つぼに霧のようになって落ちていく。滝を観来た観光客の邪魔にならぬように端によってお目当ての鳥、シロクロヒタキが現れるのをひたすら待つことに。

 

 五百澤氏が「ここで白黒つけますんでね」と、支部長の向こうを張ったおやじギャグで間を持たそうとする。水しぶきでここ結構寒いんですけど~。それよりも、こんなに人が居て、シロクロは来るのか?目の前の流れの中の石にはさっきからカワビタキがいるけれど。

 そこへ前触れもなく、カワビタキの横にシロクロが並んで止まった。

 え?あれ?あれがシロクロ?あ。2羽居る!2羽!

 

 興奮する私たちに驚く周囲の観光客の皆さま。何が何だかわからないが、とにかくスマホで皆が撮ってる方を写し始める人も。木道上の大騒ぎは気にもせず、縄張り争いを繰り広げる2羽のシロクロ。滝を一瞬で直登し、次いで急降下し、また登って、あっという間に滝つぼを飛び越えて川下に消えた。

 

 戻ってくると信じて待つことしばし。

 

 侵入者を追い払って、いかにもせいせいした感じで主が帰ってきたのは間もなくの事。滝つぼ石の上に現れたと思ったら、木道の下を潜り抜けて、滝の中段に。苔の間の虫をつついたかなと思ったら、滝の上流に消えた。

 

 何度かそんなことを繰り返し、薄桃色の足、立派な後蹠もしっかり確認させてくれた。

 

 「私は1日中でもここでシロクロ見てたいですね」とつぶやく五百澤氏をせかしてジェニファーさんがバス乗り場へと皆を誘導する。五百澤氏にとって本当に特別な鳥だったんですねえ。

 今度は下り道の途中でバスを降りる。

 

 朝登る時に車窓から、カメラマンが椅子にすわってカメラをセットしているのを見たところだ。もう一人増えて2人になっている。カメラのすぐ先、3m位の所に苔むした丸太が石の上にわたしてある。ここで待つのね、とシロクロのノリで待ち始めた。が、ここの主役はそう簡単にはカーテンコールに応じないらしい。ミルワームと録音音声のダブル攻撃にも屈しない。先ほどとは打って変わって、ジェニファーさんが「しっ!動かないで!」と指示を連発。だが、ここはバス停の一つらしく、直ぐ後ろでバスが止まってはハイキングを楽しもうという家族連れが降り立っていく。異様な雰囲気で固まって一点を見つめている集団に、目ざとい子供が反応しないわけがない。「なに?なに?なにがいるの?」(たぶん)と中国語で叫びながら駆け寄ってくる。カメラの前に出ようとする子供もいる。

 

 ジェニファーさんが押し殺した声で中国語で叱っている(らしい)が、きょとんとして「なに?」と大きな声で聞き返す。笑いたくなるのをこらえながら、こわばってきた肩や腰をゆっくり伸ばした。

 

 どれくらい待っただろう。もう立っていられなくて、すぐ横の東屋に腰を下ろしていた。

 

 完全に集中を解いたその時、彼は来た。

 

 ムネアカヒタキ。小さな宝石のような小鳥。前に座る人の肩越しに、飛び去る一瞬を見た。

  本当に来ると判って、待ちの体制が変わった。もう写真を撮り終えた方が、東屋のかぶりつきの席を譲ってくださり、その手すりでコンデジを固定して撮影にチャレンジ。

 

 しかし、集中力が限界に来ていた私は、もう来ないんじゃないかと心のどこかで思っていたらしい。不意に目の前2mに現れたムネアカヒタキに動揺して、シャッターを押せなかった。でも、目には焼き付けた。

 

 いくつものシャッター音がこだましているような錯覚の中で、ほうっと息を吐いて、もう限界と思ったとき、ジェニファーさんが撤収の指示を出した。

 

 ふらつく足で車道を下る。昼近い杉林の中で、鳥の姿は見かけなかったが、こわばった体をほぐしながら歩けるのはありがたかった。

 昼食は昨夜の宿の本館にあたる大きな建物で、円卓での台湾料理。

 

 大きな鉢に山盛りになったご飯の上に黄色いマンゴーがトッピング。ピッチャーの中には熱い梅ジュース。暑い時に熱い飲み物…もいいけど、ここはやっぱり冷たいビールで!五百澤氏の「飲みますか?」の一声にぱぱっと何本も手が上がる。ビールを待つ間に運ばれてきたのが沢庵と、黒豆と、カニ蒲鉾にマヨネーズ&スプレーチョコのトッピング。なんとなくおせち料理っぽい組み合わせ。さらに小ぶりのエビの煮つけ風。豚足煮物。空芯菜の炒めもの。蒸し魚はツバメ魚。大根のスープと野菜と魚介の炒め煮、昨日も出た巻きひげの山菜。これは山形でいうところの「シドケ」ではないかと。最後に葛野もち。フルーツ盛り合わせには昨日お店で見たレンブとグァヴァが。見た目も味付けもリゾートっぽいぞ。たらふく食べて、バスに乗り込む前に、川辺でキバラシジュウカラをじっくり見る。

 □台中

 

 もう鳥を見るのも、台湾料理もいっぱいいっぱいと感じつつ、山を下る。

 

 一気に町に下りるのかと思いきや、何もない道路の端でバスが止まった。幹線道路の右手の深い谷の上に上郷ダムのあたりを髣髴とさせる橋が伸びている。渓谷は深いが、流れそのものは最上川のように大きくはない。渓流と呼んでいいだろう。蒸し暑い。蚊がすぐに顔の周りにまとわりついてくる。

 

 この橋の上で、ヒゴロモを待つという。

 

 周囲は高い山に幾重にも囲まれている。遠くの木立にクロヒヨドリが群れている他は鳥影なし。見るものがないので、木の枝にぶら下がっているアリの巣を観察。スズメバチの巣によく似ているが、樹皮っぽくない。泥で作られているようだ。ペンキのはげかけた赤い欄干の上をアリのようなハサミムシのような小さな虫が歩いている。ジェニファーさんが盛んに音声を流すが目指すオレンジ色の鳥は現れる気配がない。五百澤氏が動いた!道路際の枝にゴシキトリが停まっているという。絡み合った枝の間に、黄緑色の姿を見つけ、一瞬暑さを忘れた。

 

 1時間余り待ったところで五百澤氏から「ご相談です」。予定の時間が過ぎてしまったが、次の予定地へ向かうか、そこをキャンセルしてここでヒゴロモを待つか。

 次の予定地は「美浜湿地」。台湾の水辺も見ていたいけれど、ヒゴロモも捨てがたい。でも、待っていてこの先現れるという保証もない。湿地では何が見られるかという質問も出て(それも必ずという保証はない)、皆、んんんーとうなった。

 結局、待つことに。トイレや水分補給など、体制を整え直してさらなる「待ち」に入った。皆、欄干にもたれたり、下の縁石に腰を下ろしたり。バスのドライバーが所在なさげにスマホをいじっている。普通の観光旅行じゃあありえないシチュエーションだ。お疲れ様です。

 

 そのうち、橋の下流側の遠い水辺にカワヒタキを発見。カワセミがすぐそばに現れて、カワヒタキの方を盛んに気にしている。双眼鏡や望遠鏡を構えているとにわかに活気づく。

 

 上流側の山の斜面は、もう黄昏掛けている。この広大な樹林のどこかに、緋色の鳥が身を潜めているのか。誰よりもじりじりとその出現を待ち望んでいる五百澤氏が、望遠鏡で何かをとらえた。はるか遠くの稜線の木の先にオオタカがいるという。この距離では難しそうな「腹の横斑」まで「心の眼」で確認して、ヒゴロモポイントを後にした。

 夕食は海岸近くで海鮮の台湾料理。大きなレストランだ。店舗の入り口にいきなりのサメの顎骨標本がある。魚が泳ぐ水槽もある。なんだなんだと気になりながらも、ジェニファーさんに促されて店の奥の円卓に着く。壁一面に魚の絵が。昨日の昼食べたツバメウオを確認するが、見慣れない種類のものが多い。テーブル中央には色鮮やかなフルーツの盛られた大皿が。ブドウやリンゴ、黄桃、メロンの上に何故かイカリング。フルーツサラダということか。皮付きのエビにはナツメか添えられている。蒸し暑い中頑張ったので、台湾ビールがことのほかうまい。白身魚のスープの他に土鍋仕立ての汁物も。揚げ物も数品。満腹したところでホイルカップに入ったものが。店員は「ピザ」というが、甘いタルト台にグラタンを詰めて上からチーズとケチャップをトッピングしたもの。台湾料理らしからぬラインナップに思わず手を伸ばすこれがデザートかと思いきや、さらに真っ白な杏仁ケーキが。

 

 

ここからまだバスで台中市内に向かわなければならないので、卓を離れ、バスが来るまでの数分間で店内を見る。サメのあご骨の他に、宇宙人のようなエイの干物など。台湾全島を肴に見立てた地図に寄ればこの「新天地」は台北や台中を中心に8店舗あるようだ。ちなみにここは梧棲創始店という名前。今度来たら8店舗うちどこかに寄ろう、まあ、何時の事かはわからないけど。

 

 もうとっぷりと日が暮れている。

 

 台中市内に着いたがこのまま宿へ行かずに夜探へ。町はずれの造成地でバスを降りる。風が強い。雨が降りそうだ。街路樹の植えられた歩道のある道路がきれいに伸びているが、大きなコンクリートの車止めが置かれていて、基本、車は入れないようになっている。道路の間には柵で囲われた広大な草地が広がっている。遠くに台中市のビル群の明かりがきれいな夜景となっているが、ここは街灯もほとんどない暗闇だ。

 

 この道路にシロアゴヨタカが「落ちて」いるという。地面にうずくまって、夜空を飛ぶ虫を狙っているそうだ。先頭を行くジェニファーさんが再三「待ってて」と言って、一人で偵察に行く。見当たらないと「いいよ」手招きするので、ぞろぞろと先に進む、の繰り返し。暗い中にライトを当てると、目が反射して光るという。皆、風に吹かれながら、暗闇に目を凝らすが、飛んできたごみだったり、草の影だったり。時折、ちょこまかと動く影にハッとするが、どれもコチドリだった。君たちはこんな所でも生きているのね、と嬉しくなる。

 

 上空をまばゆい航空灯を点けた飛行機が通過していく。明日の今頃は帰りの飛行機の中だ。

 

 小一時間も歩き回って、今夜は風が強いから、狩りをあきらめてるんじゃない?などとささやきあっていた。虫もこんな風では飛ばないよ。せめて一声でも鳴いてくれればねえ、居場所の見当もつくのに。ヨタカは繁殖期しか鳴かないってよ。皆の集中力が途切れかけた時、五百澤氏がアスファルトの上ではなく、草地にライトを向けた。「光った!」ひざ丈ほどの草の間に丸く光る二つの目。全員に緊張が走る。五百澤氏は望遠鏡を担いで走る。忍者走りというか、精いっぱいの忍び走りではあったが、全員の気迫が、小心者のヨタカを飛ばせてしまった。翼を広げて草地の端の建物の陰に舞い降りるのが見えた。

 居るとわかると、俄然スイッチが入ってしまう「探鳥」団。全身で気配を感じようと、草地の方へも目を凝らす。しかし、生い茂る草の間にうずくまる小さい鳥を探すのは、まさに藁の中の針を探すに等しい作業。さあ、バスが待ってるところへと動き出すが、目は「居そうな所」をもとめてうろうろ。五百澤氏が塀に囲まれた資材置き場に目をつけた。中は砂利が無造作に敷かれている。所々小さな藪になってもいる。望遠鏡に括り付けたライトで舐めるように照らしていた五百澤氏が興奮した声を上げた。「居ました」もうそこからスクランブル状態。飛ぶ前に全員に望遠鏡で見てもらおうと、暗闇の中「はい、見ました!次!はい、見た!次の人!」と素早い動きを要求される。見終わった人は、自分の双眼鏡に入れようと必死。「どこ?どこ?どこ?」砂利の上、全部砂利だよ、草の手前、どこの草?のり面になってるとこ。のり面?斜めになってるとこ。あー、居た!誰彼ともなく尋ねて教えあう興奮したささやき声が、夜も更けた造成地の風に吹かれて流されていく。と、さすがに嫌気がさしたのか、シロアゴヨタカがぱっと飛び立った。「はあ=」という満足とも未練ともつかないため息が全員の口から洩れた。

 

 すっかり遅くなり、ドライバーさんの超過勤務を気にしつつバスに乗り込む。きらめく街の明かりを横目に見ながら、オプションで予定していた夜市はパスするとの決定にうなづきながらあくびをかみ殺した。どんな面白そうな夜市でも、このヨタカ夜探のわくわくにはおよばないよなあと。第一、2時間近くの夜の徘徊でもうくたくただ。

 

 最後の宿は台中福華大飯店。キングサイズのダブルベッドが二つ、どどーんと並んでいる。バスルームには大きなバスタブとは別にシャワーブースもある。疲れた体を熱い風呂に沈めて、もう満足の一言しかない。もう、明日でこの旅が終わってしまうなんて。風呂上りに分厚いタオルの部屋着を着て、3日間持ち歩いた紹興酒の最後の残りをちびちびやって飲み切った。眠る前にトイレに行こうとして、流れが悪くなっているのを発見。流れないわけじゃないけど、これってまずい感じ。明日の朝、バタバタするより、今の方がいいかもね、ということでフロントに電話。ん?まてよ、中国語、わかんないし。応対したフロントマンが「にいはお。こんにちは」夜中だけど、まあいいか。「日本語大丈夫ですか?」と聞くと「あー、少し」「では、お願いします。トイレ、流れ、悪い、ね。わかる?」って、なぜに私まで片言よ。でも「あー、はい、わかります。おーけー、おーけー」とのことで、待っているとノック。女性スタッフだったので安心してバスルームを見てもらう。水位の上がった便器を一目見て、今度は英語で「わかった。ちょっと待ってて」と廊下に消えた。ドアを開けたまま待っていると、しばらくして戻ってきたが、ぴしっと制服を着てヒールを履いた女性スタッフがお便所ぱっこんを片手に構えて立っているのを見て、もう、笑いをこらえるのに必死。夜のホテルスタッフはまあ、いろんなことがあるわよね、こんなことは序の口だろうけど。ほどなくして、水位の正常に下がった便器を指さしてにっこり微笑み、彼女はさっそうと帰っていった。Good job!